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  • 北原 沙紀

モントリオールでの妊娠・出産の記録





はじめに

私は、モントリオール大学でポスドクをしている夫の同行家族として、2021年2月にモントリオールにやってきました。2021年の年末に妊娠が分かり、翌年の秋に第一子をモントリオール大学の大学病院(CHUM)で出産しました。私たちは日本人夫婦で、保険証(RAMQ)有り、ファミリードクター無し、永住権無しという状況で、産科の先生を探すところから苦労しました。さらに、日本とカナダの違いに戸惑うことや困ったことも多々あり、次に出産される方に私たちの体験を役立ててほしいと思い、このレポートにまとめさせていただきました。ただ、病院によっては異なる対応が必要になる可能性もあるので、一個人の場合と捉えていただけますと幸いです。


産科の先生探し

妊娠検査薬で陽性がでて、まずは産科の先生探しから始めました。通常はファミリードクターに診てもらった後、産科の先生に診てもらうようなのですが、ファミリードクターがいない私たちは、直接、産科の先生に診てもらおうと考えました。知人から、CLSC(日本の保健所に近い施設)で産科の先生の連絡先リストを貰えると聞き、近くのCLSCに直接行ってみたのですが、当時はコロナの影響で入館すらできず、連絡先をもらうことはできませんでした。そこで、CLSCの関連ウェブサイト(※1)を見ていたところ、CIUSSS(おそらくCLSCの上部組織)が行っている妊娠経過のフォローアップサービスを発見しました。早速メールで問い合わせたところ、翌日の朝には「ドクターに空きがなく現状フォローアップができない」という旨の返信がありました。「これは産科のある病院に手あたり次第連絡しなければならないな、、、」と覚悟していたところ、その日の夕方、なんとドクターに空きが出たので、フォローアップを受け付けてくれるとの電話をいただきました。通常、メールでの問い合わせは返事が来ないことも多々ある中、対応も早く、何度も電話をかけてくださったりと、とても親切な対応でした。結果的には産科クリニックではなく、CLSCでフォローアップを受けさせてもらえることになりました。


※1:フォローアップを受けられる病院をお探しの方は、お住まいのエリアの管轄のCIUSSSのホームページも確認されるといいかと思います。


・Postal codeから管轄のCIUSSSを探せます


・私たちが連絡した CIUSSS のウェブサイト


妊娠初期~中期

受け入れOKの電話で検診の予約を取らせてもらい、妊娠8週目にCLSCのParthenais支部で初診を受けることになりました。当日は、看護師さんから生活習慣や既往歴等の簡単な問診と以下のようなフォローアップの説明を受けました。

  1. 定期的にCLSCのParthenais支部で検診を実施

  2. 各種検査(血液、尿、超音波)はCHUM(大学病院)で実施

  3. CHUMで分娩・出産

  4. フォローアップ、各種検査、出産の費用(すべて無料!)


初診の当日はこれに加えて各種検査の受診票を書いてもらい終了でした。各種検査の予約ですが、受け入れOKの電話をいただいた時に、初診までに予約しておくように言われました。血液検査と尿検査の予約はClic Santéというウェブサイト(※2)から簡単に取ることができたのですが、超音波検査はCHUMからの電話を待ち、その電話で個人ファイルを作成してもらう必要がありました。私たちの場合、その電話が取れなかったので、すぐに折り返したのですが、フランス語の自動音声に繋がりかなり苦労しました。ただ、検査自体は英語で対応してくれたので本当に助かりました


各種検査が完了すると、次は産科のお医者さんによる診察です。場所は初診の時と同じくCLSCのParthenais支部で、私の場合は妊娠13週目でした。検査結果は自動的にCHUMからCLSCに送られており、当日は検査結果を踏まえた問診、体重と血圧の測定、胎児の心音確認などでした。こちらの疑問には親身に答えてくださりとても安心感がありました。


これ以降は、約5週毎に妊娠32週目まで看護師さんと産科のお医者さんが交互に検診をしてくださいました(32週目以降はお医者さんのみ)。23週目ごろからは子宮底長の測定が始まるなど少し変化はありますが、ほぼ同じような検診が続くだけなので、妊娠初期の手続きと各種検査が終わってしまえば、比較的落ち着いていったという印象です。超音波検査も毎回行われる訳ではありませんでした。私の場合は、2回目の検査で低置胎盤(胎盤と子宮口が近い状態)であると分かったので追加で受けることになりましたが、通常は11週目前後と20週目前後に2回だけしか実施されず、これも日本とは随分違うなと感じました。


※2:Clic Santé の ウェブサイト


妊娠後期~出産

妊娠後期は少しずつ検診の頻度が増えていき、検診の間隔が4週間→3週間→2週間となり、妊娠38週目から出産までは1週間に1回のペースで検診を受けていました。予定日の1週間前には夫も産休を取り、陣痛が来たらUberで病院(CHUM)まで行けるようにスタンバイしていました。ところが、予定日の40週目が過ぎてもいっこうに陣痛がやってくる気配が無く、再度CLSCの産科の先生に診てもらうことになりました。42週を過ぎての出産は胎児へのリスクが高くなるため、41週の間に産む方がいいとのことでした。まずは胎児の健康状態の確認のためCHUMで超音波検査を受けるように言われ、予定日の1週間後に検査を受けました。検査では、胎児、羊水の状態共に特に問題はなく、自然に産みたいのであればもう少し待ってもいいし、誘発分娩をしてもいいしと、選ばせてもらえることに誘発分娩の場合はなんとそのまま当日入院してもいいよとのことで驚きました。これ以上待つのはしんどく、しかしその当日に産む覚悟はできていなかったので、翌日に誘発分娩をすることにして、その日は帰りました。


翌日の朝、病院に着くと個室に案内されました。そこは、陣痛から分娩まで過ごす部屋で、ベッド、医療機器の他、トイレ、シャワーがついていたり、バランスボールが置いてあったりと、かなり広々とした部屋でした。その後説明を受け、看護師さんからpain controlはどうするか尋ねられ、無痛分娩を希望しました。これも驚いたことなのですが、無痛分娩にするかどうかは当日に選ぶことができました。事前に担当医に聞いた話では、無痛分娩を希望していても思ったより陣痛に耐えられそうだったら変えてもいいし、自然分娩にするつもりでも途中で無痛分娩に切り替えてもいいとのことで、すごくフレキシブルな対応をしてもらえるなと驚きました。検診の際に、スムーズなお産のために、子宮口がある程度開いてから麻酔が打たれるとの説明を受けていたので、麻酔を打ってもらうタイミングは先生が決めるものだと思っていました。しかし陣痛が進んでも子宮口のチェックは行われず、陣痛の痛みに耐えられなくなってから看護師さんに聞くと、すぐに麻酔科に連絡を取ってくださったので、我慢せずにもっと早く聞いておけばよかったなと思いました。


出産後は赤ちゃんを抱いたまま処置を受け、その後、入院する個室に移りました。完全母子同室で、赤ちゃんと片時も離れることのない状況でした。検査や沐浴指導などもその部屋で行われ、夫が寝られる簡易ベッドもあり、とても広々と快適なお部屋でした。


産後は入院期間が短く、自然分娩の場合は出産24時間後の検査で問題がなければ退院となります。しかし、退院後に問題があれば生後1週間の間はCHUMで継続的に診てもらうことができます。息子は黄疸の疑いと体重減少が著しかったため、1週間で2回通院させてもらいました。


産後のフォローアップ

産後の入院期間が短いので最初はとても心配していたのですが、退院後はCLSCの看護師さんが自宅まで来られ、フォローアップをしてくださいます(※3)。これは自分で申込する必要はなく、出産をした病院からCLSCに連絡が行き、退院後2日以内にCLSCから親に電話がいく仕組みになっているようです。赤ちゃんの健康状態の確認(体重や黄疸の確認など)、母親の健康状態の確認(主に問診)、母乳育児のサポート、親の質問に対して様々なアドバイスをしてくださいます。先述の黄疸の疑いについても、CLSCから来ていただいた看護師さんが再度CHUMで検査をしてもらえるように手配してくださいました。


さらに、育児について困った時に助けてくれる両親などが近くにいるか確認され、両親の手を借りられないことを伝えたところ、夫の育休明けからCLSCのベビーシッターを手配してくださいました。週に1回 、3時間来てくださり、その間にゆっくり寝ても良し、家事をしても良し、外出に付き合ってもらうも良しといったように、母親がゆっくりできる時間を提供してくださいます。ベビーシッターと電話をずっと繋いでいれば子供を家で見てもらいながら母親が買い物に行くなど外出してもいいそうです。(ただし、この方とは全てフランス語のみでのコミュニケーションでした。ほぼGoogle 翻訳での会話でしたが...笑)こちらのサービスも無料で、3ヶ月間来ていただき、とても助かりました。


この他にも最初は母乳育児が上手くいって無かったので、母乳外来のようなもの(Jewish hospital)を紹介してくださるなど、心配事に合わせたサービスを手配してくださいました。このように基本的に赤ちゃんやお母さんの健康についての相談はなんでも受け付けてくれると思います。


※3:産後の訪問フォローアップについて


産後の行政手続き

生後すぐにしなければならない行政手続としては出生届があります。30日以内にDirecteur de l’état civilに届け出を出すのですが、提出時に悩まされたのが私の名字についてです。ケベック州は旧姓制度となっているので、RAMQカードは旧姓表記です。しかし、SINやWork permitは夫の姓で表記されているので、declaration of birthに母親の名字をどちらで書いたらいいのか悩みました。L’état civilに問い合わせましたが、人によって回答が違い向こうの方もあまりよく分かってらっしゃらないように思います。結果的には、オンラインで提出する際RAMQカードの名前と一致させないとエラー表示が出たので旧姓で提出しました。その後特に問題はなく、受理されました。

カナダ市民と永住権を持っている方は出生届と同時に必要事項を記入すれば、SINの取得、カナダ政府のCanada Child Benefit、ケベック州のFamily Allowanceといった政府のプログラムと紐づけられるようになっており、個別に申請する必要はありません。しかし、一時滞在者は別途申請が必要となります。(このことを詳しく知らない職員から、ケベックで出産したのなら自動的に登録されるから申請はしなくていいと言われたりしたので、少しややこしかったです)子供のRAMQカードに関しては、両親がRAMQ保有者の場合、カナダ市民や永住権保有者でなくとも、申請をしなくても自動的に発行されます。


産後の定期検診

産後で一番困ったのが、子供の定期検診先探しです。ケベックでは、生後2ヶ月、4ヶ月、6ヶ月…と定期的にファミリードクターに診てもらう事が推奨されているようです。ただ私たちの場合は生後2ヶ月時点でファミリードクターはおろか、RAMQカードすら届いていない状況でした(ファミリードクターを探すシステム Québec Family Doctor Finder に登録するのにRAMQカードが必要になるのです)。最初、いくつか小児科のクリニックに直接あたってみたのですが、やはり子供のRAMQカードが必要だと言われてしまいました。また、知人からLe Club Elna Pédiatrie Tiny Totsというクリニックはウォークインで定期検診をしてくれると聞いたのですが、2022年11月当時は新規の受付はされておらず断念しました。


そこで、やっぱりここでもCLSCに頼ることにしました。新生児訪問をしてくださった看護師さんから、ファミリードクターがいない場合は、CLSCで定期検診をしてくれるとの情報を聞いて、早速最寄りのCLSCに問い合わせました。最初は、自分の担当のお医者さんがいる人だけしか受け付けていないと断られ、たらい回しにされたのですが、もう一度CIUSSS経由で問い合わせたところ、たまたま空いている日程があり、運良く診てもらうことができました。4ヶ月検診の際にも同じくたらいまわしの後に無事、検診の予約を取ることができました。この時に分かったのですが、CLSCに電話をする際、私は「regular checkup をお願いしたい」と伝えていたのですが、本来は「ABCdaireを受診したい」と伝えるべきだったようです。ABCdaireとは、子供の定期健診の名称のようで、このように伝えるとスムーズに検診の予約をすることができました。もし同じようにファミリードクターがまだ見つかっていない方は、Clic Santé のChildren Vaccinationの項目から、“vaccination +ABCdaire”を確認してみてください。


最後に

私は、フランス語はおろか英語もままならない中で、モントリオールで妊娠と出産を経験しました。実をいうと、妊娠が分かった時は、あまりに不安過ぎて日本に帰国して出産しようかとも考えました。ただ、今振り返ってみると、お世話になった病院の皆さん、行政関連の皆さんはとても親切に対応してくださったので、大きなストレスもなく出産することができました。例えば、電話対応などでも英語やフランス語が聞き取れずに同じ質問を繰り返すということが何度もありました。そんな時でも嫌なそぶりを見せず毎回辛抱強く対応してくださったので、とてもありがたかったです。また、経済的にも無痛分娩を含め、妊娠出産、出産後のフォローアップなどに費用はかからず、その上、子供手当としてCanada Child Benefit(カナダ連邦からの手当)とFamily Allowance(ケベック州からの手当)の両方から支給を受けることができるので、子供を持つことの金銭面の負担が少ない仕組みもとてもありがたいなつくづく感じています。


今回、次に出産を経験される方に少しでもお役に立てればと思い、このレポートを書かせていただいたのですが、おそらく抜け漏れ等もたくさんあると思います。もし、より詳しく実際の体験等を知りたいという方がいらっしゃいましたら、アカデミー会を介してご連絡をいただければと思います。


最後になりましたが、アカデミー会の皆様には妊娠初期から大変お世話になりました。佐藤先生、富田先生には最初の病院選びについてとても親身に相談に乗っていただきました。また、長沼さんご夫妻には妊娠から出産、産後に至るまで、物理的にも精神的にもサポートいただきました。皆さんのお陰でモントリオールで無事出産をすることができ、感謝の気持ちでいっぱいです。本当にありがとうございました!


北原沙紀

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