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  • 中村壮志 マギル大学 訪問研究員

モントリオールでの生活を振り返って+人工知能『超』概要

2017年10月より2019年8月までの約2年間、モントリオールにあるマギル大学 School of Computer Science(Doina Precup教授に師事)にて訪問研究員をしておりました中村と申します。建築学科を卒業後、日本の建設会社にて構造解析・地震応答解析などに従事しておりましたが、マギル大学では『建築・建設業への人工知能の適用』をテーマに研究活動をさせていただきました。

人工知能やAI(Artificial Intelligence)という言葉は、2010年頃からニュースなどで目にすることが増えてきました。コンピュータがネコを認識(2012)、AIが囲碁のトッププロに勝利(2016)といったニュースは聞いたことがある方も多いかと思います。当社でも、著名な先生を招いて社員向けの講演会を開催するなど、人工知能を業務に適用することを考え始めました。私が所属していたグループでも応答解析に人工知能が使えるのではないかと考え、大学の教授に技術指導を依頼するなどして勉強を開始しました。同じ時期に、幸運にも社内制度の1つである海外留学生の話をいただきました。勉強を始めたばかりではありましたが、せっかくの機会なので人工知能について海外で研究しようと思い、技術指導を依頼していた教授に相談したところ、ご紹介いただいたのがマギル大学のPrecup教授でした。慣れない英語によるCVや研究提案書のやり取りを経て、なんとか受入れの連絡をいただくことができました。2017年の10月初旬、成田空港からシカゴ経由のフライトで夜9時過ぎにモントリオールに到着、家族4人で雨の中スーツケース6個を引きずりながらダウンタウンのホテルへ向かったことを覚えております。

実は、人工知能の歴史にはこれまでに2度のブームがあったのですが、コンピュータの能力不足などが原因でブームは去っていきました。しかし、インターネットの普及、コンピュータの発達、そしてディープラーニングの誕生によってこれまでの課題がクリアされ、3度目のブームを迎えているのです。第1次ブームから数えると50年以上の研究がされている人工知能ですが、いまだこれといった明確な定義がありません。様々な言い方がありますが、私は『人が脳を使って行っている知的な行動をコンピュータに行わせるシステムやソフトウェア』という表現が比較的近いように思います。人は年齢を重ねるうちに、多くの知的な行動を自然と学び、実行することができます。少し専門家っぽい言い方をすると、『ある入力があった場合に、どういった出力をするべきか』を脳が把握しています。我々が普段そのことを意識することはありませんが、この入力と出力の間には何かしらのルールがあり、そのルールが分かればコンピュータに命令することができるはずです。しかし、ほとんどの場合、そのルールは非常に複雑です。例えば図1に示す5つの画像が全てリンゴを示すことは簡単に理解できます。しかし、頭の中でどうやってそう判断したのかを、言葉で記述しようとすると非常に難しいことが分かるかと思います。(例えば、『赤っぽくて、丸っぽい』だけでは左のリンゴしか言い表せません。)

図1 人間の脳はどうやってリンゴだと判断しているのだろう?

この複雑なルールを機械が自動的に学習することを機械学習と呼びます。一般的に、機械学習は教師あり学習・教師なし学習・強化学習の3つに分類されます。教師あり学習は画像識別や自然言語処理(機械に人間の言葉を理解させる技術)などに使われ、教師なし学習はクラスタリングと呼ばれるデータの分類を行う場合などに使われます。強化学習はゲーム攻略やロボット制御などに用いられます。これらの学習をより素早く、より正確に行うための学習手法の開発やAIの実用化に向けた研究が世界中で日々行われています。ここでは簡単にしか説明できませんが、ウェブ上には優れた記事や学習コンテンツがたくさん公開されています。興味を持たれた方はCouseraやQiitaで検索してみてください。

ところで、カナダにはAI界のレジェンドとも言える3人の研究者がいるのをご存知でしょうか。その筆頭はトロント大学のGeoffrey Hinton教授で、彼はディープラーニングの原理を提唱したとされています。モントリオール大学のYoshua Bengio教授もディープラーニングの発展に深く貢献しており、ディープラーニングの生みの親と言われています。アルバータ大学のRichard Sutton教授は強化学習の先駆者として知られており、彼の著書Reinforcement Learning -An Introduction- は研究者のバイブルとなっています。彼らはそれぞれVector Institute(トロント)、Mila(モントリオール)、Amii(エドモントン)という名の研究所にも所属しており、これらの研究所は世界各国から多くの研究者が集まる人工知能・ロボティクスの研究拠点となっています。カナダ政府はこういった研究拠点の支援を含む、国家方針としてのAI戦略(Pan-Canadian Artificial Intelligence Strategy)を各国に先駆けて打ち出しており、国としてこの分野を推し進めていく姿勢が見られます。このようにカナダには、基礎研究の場として非常に恵まれた環境が整っており、今後も日本からの企業進出や研究員の訪問が増えてくるかもしれません。

モントリオールの建築のことを少しお話しします。ノートルダム大聖堂からオールドポート一帯の旧市街の街並みはもちろん素晴らしいのですが、モントリオールの近代建築もなかなかに魅力的です。1967年の万博で建設されたHabitat 67団地は日本の建築士試験に出題されたこともある有名な集合住宅になります。また、ダウンタウンでは1960年代から、日本で最初の超高層ビルである霞が関ビルディング(1968年、147m)よりもはるかに高い超高層ビルが建設されています。しかしMount Royalを越えてはならないという法規制により標高233mを超える建物は存在していません。しかし、このユニークな規制により、展望台から見下ろせるコンパクト感が生まれ、トロントやバンクーバーとは違った雰囲気を作りだしているのだと思います。さらに、私も来てから知ったのですが、モントリオールには建築界の大巨匠ミース(Ludwig Mies van der Rohe)の建築が3つもあるのです。建築に興味がある方は、ぜひ探してみてはいかがでしょうか。

写真(上:旧市街の路地、中央:Habitat67、下:Mount Royalからのダウンタウンの眺望)

モントリオールでは、大変充実した2年間を過ごすことができました。大学で学んだ内容だけでなく、Precup教授やアカデミー会の先生方を含む多くの研究者の方々との繋がりを持てたことが私の大きな財産となりました。一緒に来てくれた妻や子供たちには、突然海外での生活を強いることになりましたが、慣れない環境で本当によく頑張ってくれたと感謝しています。

最後になりますが、アカデミー会から発信されている情報は、丁寧かつ明解で渡航前から渡航後まで大変参考にさせていただきました。また、研究報告会やBBQ、忘年会など多くのイベントに参加させていただき、家族全員非常に楽しい時間を過ごすことができました。アカデミー会の皆様に深く御礼申し上げるとともに、これからのアカデミー会の益々の発展と皆様のご活躍を祈念しております。

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