私は日本では成人先天性心疾患に限らず、循環器内科全般を専門としておりましたので、Covid-19と循環器内科全般について、最新の知見を報告したいと思います。(読まれる方のなかには医療関係ではない方もいらっしゃると思いますので、要点を絞って書かせて頂きたいと思います。)

 

日本、カナダを含む世界中の循環器内科医が危惧しているのは、いわゆる心臓発作; 急性冠症候群、急性心筋梗塞、急性大動脈解離の患者さんが、

"Covid-19 にかかるリスクが高いから病院が恐い"

と受診するのを躊躇して、亡くなってしまうことです。

カナダのHeart and Strokeのサイトにも見出しに

”Call 9-1-1 for heart attack, stroke or cardiac arrest. Do not hesitate to call 9-1-1, even during the corona virus pandemic. Hospitals are prepared. Don’t let COVID-19 destroy more lives.”

とあります。https://www.heartandstroke.ca/heart/what-is-heart-disease

 

日本でも、心筋梗塞発症時の早期受診の重要性について、日本循環器学会・日本心血管インターベンション治療学会合同で、一般の方への動画が作成されています。
https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2020/04/%E4%B8%80%E8%88%AC%E5%90%91%E3%81%91.mp4

(日本で緊急事態宣言が出される少し前の内容ですので一部は現状とは異なることもあります。)

 

ニューヨークでCovid-19が広範に広がった際、心筋梗塞の入院が3割から4割減少したと報告されました。一方、自宅や搬送中に死亡し、病院に到達せずに検死にまわったハートアタックと考えられる症例は、4倍に上昇したそうです。Covid-19蔓延下において、心筋梗塞の発生数が減少するとは考えにくく、入院が減少した理由として、患者がCovid-19の蔓延下で受診を自主的に抑制した結果、医療を受けられなかった心筋梗塞や、大動脈解離による突然死が増加しているものと推測されます。私のニューヨークにいる心臓外科医の同級生は、市全体で3月の急性大動脈解離の手術症例が、なんと一例も無かった、と驚いておりました。モントリオールでは、急性冠症候群および、急性大動脈解離の緊急に対する診療体制は維持されていますので、持続する胸痛や背部痛が出現した際には、受診を躊躇しないでください。

 

一方、予定の心臓カテーテル検査や治療、心臓手術に関して、医療資源の確保や、さらにCovid-19によって重症化しやすい心血管疾患を有する患者を、感染のリスクが高い病院に近づけないために、多くの施設で基本的に延期となっています。(Welt F et al. J Am Coll Cardiol. 2020)

心エコー検査に関しても、経食道心エコー検査はもちろん、経胸壁心エコー検査に関しても、本当に必要な症例に絞り、さらに施行する際は感染防御に細心の注意を払って行われています。ASE Statement on Protection of Patients and Echocardiography Service Providers During the 2019 Novel Corona Virus Outbreak https://www.asecho.org/ase-statement-covid-19/

 

日本の現状に関して同僚によると、やはり地域差があり、予定検査に関しても継続している地域もあるそうです(日本循環器学会の指針に反している場合があるので、賛否両論があるそうです。)日本心血管インターベンション学会が実施したアンケートでも明らかになっていますが、緊急の手術や心臓カテーテル検査治療に関しては、最も蔓延していた首都圏でも、基本的に継続できていたそうです。

 

(以下、循環器疾患に対する詳細情報です。)

 

1. 欧州、北米、アジアの169病院を含む多施設レジストリに登録された8910人のCovid-19患者データを用いてCovid-19罹患前の患者背景と死亡の関係を調べたところ、

65歳以上 (オッズ比, 1.93; 95%信頼区間, 1.60 – 2.41)、

冠動脈疾患の既往(オッズ比, 2.70; 95%信頼区間, 2.08 – 3.51)、

心不全(オッズ比, 2.48; 95% 信頼区間2.48; 95%信頼区間, 1.62 – 3.79)、

不整脈(オッズ比, 1.95; 95%信頼区間, 1.33 – 2.86)、

慢性閉塞性肺疾患(オッズ比, 2.96; 95%信頼区間, 2.00 – 4.00)

喫煙 (オッズ比, 1.79; 95%信頼区間, 1.29 – 2.47)

が院内死亡のリスク因子として見出されました。(Mehra et al. N Engl J Med. 2020) 

このような結果を踏まえて、CDC (Centers for Disease Control and Prevention) が掲げるコロナウィルスに罹った際に、重症化しやすいリスク因子の一つに重篤な心疾患が含まれています。https://www.cdc.gov/coronavirus/2019-ncov/need-extra-precautions/people-at-higher-risk.html 

 

私の勤務するマギル大学の成人先天性心疾患の外来に通院する患者さんで、医療従事者やエッセンシャルワーカーとして仕事を継続されている方に、家を出て仕事をしていいのか?と質問されることがあります。この場合、どのような職場か?どのような心疾患か?で答えは変わってきます。まだ学会から正式に指針は出ていないですが、基本的には重症の心疾患の方には在宅を継続することを推奨し、軽症の心疾患(例えば、手術で閉鎖されている心房中隔欠損症例等)の方には、希望されていれば通勤可能とアドバイスしています。

 

2. 降圧薬として、もしくは心筋梗塞および心不全の予後改善目的で処方されるACE阻害薬や、アンギオテンシン受容体拮抗薬ARBといったRAAS (renin-angiotensin-aldosterone system) 阻害薬が、コロナウィルスの感染のリスクを、さらに重篤化させるのでは、と危惧されました。 (McMurray JJV et al. N Engl J Med. 2020) 

これは、コロナウィルス(SARS-CoV-2)が宿主に感染するにあたり細胞表面に発現している受容体タンパク質ACE2(angiotensin-converting enzyme 2) 受容体を認識して感染し、RAAS阻害薬はACE2の発現を上昇させるからです。しかし、New York University Langone Health electronic health record に記録されたCovid-19の検査を受けた12594人(うち5894人陽性)について、検査前に内服してACE阻害薬やARBを含む降圧薬と陽性になる傾向、さらには重症化のリスクを調べたところ、いずれについても関連は認めなかったようです。(Reynolds et al. N Engl J Med. 2020) 

この結果や、さらにACE阻害薬やARBは、そもそも心保護などの効果を期待して処方されていることから、欧州心臓病学会、米国心臓病学会を含む主要な学会が、ACE阻害薬やARBの継続を推奨しています。

 

3. Covid-19の重症化に伴って、心筋傷害の合併率が高まると報告されています。心筋傷害のマーカーであるトロポニンの上昇と、院内死亡の関連が報告されています。(Yang X et al. Lancet Respir Med 2020) 

心筋傷害の機序に関しては、心筋虚血や心筋炎などがあるとされています。 (Driggin E et al. J Am Coll Cardiol. 2020) 

 

4. Covid-19患者では、静脈血栓のリスクが高まることが報告されています。(Klok FA et al. Thrombosis Research2020) 

重症のCovid-19患者では凝固障害が見られ、中国での多施設レジストリにおいてd-dimerと院内死亡の関連 (オッズ比, 18.4; 95%信頼区間, 2.6 – 128.6)が報告されています。 (Zhou F et al. Lancet 2020)

他にも、Covid-19生存者と死亡例の比較研究において、死亡した群ではd-dimerに加えて、フィブリン分解産物fibrin degradation products (FDP)の上昇を認め、死亡した患者の71.4%がDICの基準を満たしました。(Tang N et al. J Thromb Haemost. 2020)

米国のマウントサイナイ病院に入院した2713人のCovid-19患者の観察研究では、入院中に抗凝固薬が投与された786名の生存期間は、非投与群に比べて長い (中央値21日対14日) ことが確認されましたが、院内死亡率は有意な差を認めませんでした(22.5% 対 22.8%)。しかし、人工呼吸器を要した重症例395名に限って解析すると、抗凝固薬投与群は、非投与群に比べて、院内死亡率は統計学的に有意に低くなり(29% 対 63%: p < 0.001)、生存期間も延長したが(中央値21日対9日)、出血性合併症の増加は認めなかったと報告されています(3% 対 1.9%)。(Paranjpe I et al. J Am Coll Cardiol. 2020)

これらは後向きの観察研究であり、今後のランダム化比較研究においても、抗凝固薬が出血性合併症の増加がなく、予後改善効果を示すことが期待されます。(Spyropoulus A et al. Lancet 2020)

 

以上、概略ですが循環器疾患・診療体制とCovid-19について、述べさせて頂きました。今後も、最新情報を共有させて頂きたいと思っています。モントリオールは厳しい状況が続いておりますが、どうぞ皆様お身体に気を付けてお過ごしください。

 

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