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  • ​コロナと、子供と、正しく付き合うために (Dec 17, 2020)

図書館の子供たち

前回はコロナ禍においてどの様に溢れる情報に向き合うべきか、「情報のレベル、階級を理解する」ことに焦点を絞ってお話をしました。人の性(さが)なのでしょう。「自分が正義だ」、「私は美しい」と思いたい欲求が強いが故に、多くの人が根拠の薄い一次情報 (本人が直接的に体験から得た情報や考察、本人が行った調査や実験の結果など)を垂れ流し、またインターネット上には出所不明な二次情報(他者を通して得られた情報、一次情報を解釈した上で記された情報など)が溢れかえっています。繰り返しますが、本当に正しく情報を「理解」するには、例えそれが全幅に信頼を置いている人からの情報であったとしても、簡単に鵜呑みにせず、それぞれの情報背景を適切に理解する努力を続けなければいけません。

さて、読者には小さなお子さん、お孫さんがおられる方も少なくないと思います。ここでは、前回からさらに踏み込み、個々の情報をどの様に把握し理解すれば良いのか、子供のコロナ感染に関する疑問を例に挙げて解説して行きたいと思います。「子供はコロナにかかりにくい」なんて言う表題のニュースを目にしたとします。さてこのニュース、「子供のコロナ患者は少ない」、「子供は大人と比べてコロナに感染しにくい」、「子供は大人に比べて同じ量のウイルスに暴露されても感染しにくい」、「子供は大人に比べて同じ量のウイルスに暴露されても発症しにくい」、「子供は大人に比べて同じ量のウイルスに暴露されても発症しにくいし、重篤化しにくい」、「子供は大人に比べて、新型コロナウイルスに感染し、発症した場合、重篤化しにくい」何を言っているのでしょうか。正直タイトルからはわかりませんね。しっかり文章、記事を読んでみる必要がありそうです。では、果たしてそのタイトルの下に書かれた文章、記事は、自分自身が知りたい、知るべき情報なのか、どのように読み進めれば良いのでしょうか。ここでは、我々医療従事者、研究者がよく使う「PECO(ペコ)」という方法を用いて解説してみたいと思います。P は Patient(患者)や Population(対象)。E は Exposure(暴露、介入)。C は Control/Comparison(比較対象)、そして Oは Outcome(結果)の頭文字になります。先程のニュースタイトルに戻ってみましょう。「子供はコロナにかかりにくい」。P はきっと子供ですね。でも子供と言っても新生児でしょうか。あるいは小学生、高校生なのか。わかりませんね。しっかり文章、記事を読んで確認する必要があるようです。では E。これは新型コロナウイルスですね。でも密室かつ目の前で感染者がマスク越しに咳を繰り返してきた、換気の良い室外で感染者と距離を保って少しだけ一緒に過ごした。全く違うシチュエーションですね。つまりどんな状況、暴露を言っているのか、確認する必要があります。C はどうでしょうか。これはタイトルからは全くわかりません。大人と比べて、お年寄りと比べて、健康な成人と比べて。全く不明です。しっかり文章、記事を読み込んでみましょう。最後に O。「かかりにくい」とは、ウイルスそのものが喉につきにくいことを言っているのでしょうか。あるいは、ウイルスに暴露されても体に取り込まない、発症しない(症状が出ない)、重症化しないことを指しているのでしょうか。またまたタイトルからはわかりませんね。要はタイトルで一喜一憂せず、PECOに注目してしっかり本文記事を読んでみる。その上でそのタイトルが確からしいのか、自分が知るべき情報なのかを判断をする必要があると言うわけです。

つい先日も米国の大手製薬会社が開発したワクチンが 95%も有効だった!と言うセンセーショナルなニュースタイトルがメディアの一面を飾りました。PECOを読み込めば確実性の低いタイトルであることはすぐにわかり、多くの医療者が懐疑的で、引き続き冷静にことの成り行きを見守ろう、と発言をしている理由が分かります。繰り返しますが、情報を目にした時、タイトルに飛びつかず、まずは自分が知りたい、知るべき情報が書かれているのか、科学的な手法で情報が正確に記述されているのか、自分自身で判断をする必要があります。逆にそうでない記事は大した情報源ではありません。少し前に某自治体のトップが「イソジンはコロナに効く!」なんて言って話題になりました。世間が混乱したのは、その発言主が「PECO」を 理解せず、上辺だけを広報してしまったからなのです。「健康でコロナへの暴露がない人?コロナで重症の人?」、「どれくらいの量で?どれくらいの頻度?どんな方法で?」、「誰と比べて?」、「どういう効果があった?」。このようなことがメディアも含め当初全く発信されませんでした。 最初から「とある小規模研究によると、新型コロナ陽性のごく軽症患者に対し(P)、イソジンで一回うがいをしてもらったら(E)、うがいの前と比べて(C)、喉のウイルス量が多少減った(が他の副作用などが起こったかは不明)(O)」としておけば混乱はなかったはずです。まあ、そんなもんでしょう。消毒薬ですので。例えばこの話が「コロナの重症患者にイソジンうがいを 5 日間してもらったら、そうしなかった人に比べて死亡率がすごく減った」と言うものなら全く違った話だったかもしれませんね。

最後に、せっかくですので、「子供は大人に比べて、新型コロナウイルスに感染し、発症した場合、病初期に重篤化しにくいのか」という疑問に答えておきたいと思います。ここでは子供と言うのは基礎疾患がない、新生児を除く18 歳未満の子供とします。ちなみにこの疑問、PECOがはっきり描写されていますね。簡潔にいうと、現在わかっている知見から判断すると、子供(P)は新型コロナウイルスに感染し発症した場合(E)、同じ状況にある大人に比べて(C)、病初期には重篤化しにくい(O)とおそらく言えます。もう少し正確にいうと、「新生児を除く小児患者は、新規に新型コロナ 陽性と判断された場合でも、20 歳以上の成人と比べて、1-2 週以内に入院を必要とする状態まで症状が悪化する可能性は低い。また入院が必要なレベルまで症状が悪化した場合も死亡する率は低い」となるかと思います。例えば、米国の23 州からのレポートでは陽性になった子供の0.5-6.1% が経過中に入院を必要とし、また陽性となった子供の 0.001-0.15% が死亡したとされています(米国小児科学会 https://services.aap.org)。日本人のデータに目を向けますと、厚生労働省は(11月4日現在)10歳未満の累計陽性患者が 2485人、うち死亡はなし。10歳代でも 5424人の累計陽性者数に対し、死亡なしとしています。逆に 70歳以上は累計 12922人の陽性者数に対し、1494人の死亡と報告されています。死亡率そのものは、「誰に対し検査をしたのか」つまり分母によって大きく変化しますので、さほど重要な情報ではありません。ただ、これら年齢別の死亡数推計、各人種、国からのデータが概ね同じような傾向を指していることなどから、先述の様な答えが出せるものと思います(www.mhlw.go.jp/content/10906000/000692125.pdf)。

ちなみに、ここからはまだ根拠が薄い話なのですが、中国や、ヨ ーロッパからの報告では、1歳未満の子供、慢性呼吸器疾患、心臓疾患、悪性腫瘍、神経学的異常など基礎疾患がある子どもは経過中に集中治療を要する可能性が、そうでない子供たちと比べて高かったと言うことです。何れにせよ新生児を除く子供は例え発症したとしても重篤化することは少ない、と言うのが今のところの大勢を占める意見となっています(The Lancet Child & Adolescent Health 2020、EClinicalMedicine 2020; 24: 100433)。

(医療)情報をどのように読み解くか。なかなか一朝一夕にできるものではありませんが、もしお時間があればこんな手法を利用して記事を読んでみるもの良いかもしれません。

川口敦‐CHU Sainte Justine、小児集中治療医

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