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  • ​ 新型コロナウイルスに関連する結膜炎について(May 15, 2020)

青い目

-新型コロナウイルスは目の粘膜に感染し、重症化の指標になる可能性-

要約

  • 新型コロナウイルスは目の粘膜である「結膜」に感染する可能性があります。

  • 新型コロナウイルスに関連する結膜炎の頻度は高くないものの、重症化しやすい患者さんの初期症状として出現することがあり注意が必要です。

  • ウイルスの飛沫感染・接触感染を予防するために、頻回の手洗いとアルコール消毒を心がけましょう。

 

1. はじめに

新型コロナウイルス(COVID-19)の感染拡大が世界中で続いています。新型コロナウイルスは口や鼻の粘膜から感染しますが、目の粘膜である「結膜」からもウイルスが侵入する可能性が指摘されています。本稿では、眼科医の視点から、新型コロナウイルスに関連する結膜炎の特徴とその対策についてまとめました。

 

2. 目に新型コロナウイルスが感染する可能性 -飛沫感染と接触感染-

武漢市査察後に自らも新型コロナウイルスに感染した肺炎専門家である医師が、「初期症状は結膜炎であった」と2020年1月22日に発表しました。この声明を受けて、眼科医であるCheng-wei Lu氏は新型コロナウイルスが目に感染する可能性について言及した論文を投稿しています1)。

新型コロナウイルスは、2つの感染経路によって目にも入る可能性があります。1つ目は、新型コロナウイルスに感染した患者さんの咳やくしゃみ、話しているときの唾液に含まれるウイルスが飛散して顔にかかった場合です(飛沫感染)。2つ目は、ウイルスが付いた携帯電話などを触った手で目をこすったりした場合にもウイルスが目に入る可能性があります(接触感染)。

 

3. 新型コロナウイルスに関連する結膜炎の頻度 -低頻度だが重症化の指標に-

信頼性の高い医学的根拠とされるメタアナリシスの結果では、新型コロナウイルスに関連する結膜炎の発症頻度は1.1%であったと報告されており、全体としての頻度は高くないと言えます2)。結膜炎の頻度が低い理由については明らかとなっていませんが、新型コロナウイルスが体内に入り込む際に利用するACE2受容体の発現量が、結膜組織では口や鼻の粘膜組織に比べて少ないことが関係しているのではないかと考えている研究者もいるようです。

一方で、重症肺炎を患っていた患者さんは、軽症の患者さんと比較して、約3倍結膜炎を発症しやすいことが明らかとなっています2)。このことは、結膜炎の発症は新型コロナウイルスの暴露量が多いことを間接的に示す結果であり、呼吸器症状が重症化しやすいサインであると考えられます。

 

4. 新型コロナウイルスに関連する結膜炎の症状 -初期症状として発症する可能性-

子供から高齢者まで幅広い世代で、発熱や呼吸器症状が出現する以前に初期症状として片目あるいは両目に新型コロナウイルスによる結膜炎を併発することが報告されています3,4)。ウイルス感染によって、結膜にあるリンパ組織が炎症のために腫れ、白目が赤くなる(濾胞性結膜炎)、白目がむくんでブヨブヨの状態になる(結膜浮腫)、涙目、さらさらした目ヤニなどが生じます。しかし、これらの症状はウイルス性結膜炎全般においてみられ、新型コロナウイルスに関連する結膜炎に特異的なものとは言えません。陽性率は低いものの、結膜擦過物や目ぬぐい液を用いたRT-PCR検査で新型コロナウイルスの遺伝子が検出されれば、新型コロナウイルスに関連する結膜炎かどうかを診断することができます。

 

5. 目からの感染を防ぐために -目をさわらない・こすらない、頻回の手洗いを-

新型コロナウイルス感染症の基本的な対策は、石鹸による十分な手洗いアルコールで消毒することです。目をさわらない・こすらない、こまめに手を洗うことを心がけましょう。コンタクトレンズや点眼液を使用している方は、目に触れる前後に十分な手洗いを行ってください。また、他の人との目薬の共有はやめましょう。眼鏡やゴーグルの装用は、目からの感染を防ぐうえで有効な手段ですが、眼鏡やゴーグルに触れた手で目をこすってしまうとかえって感染のリスクを高める可能性があることに注意してください。帰宅後、私は手洗いに加えて、眼鏡や携帯電話を消毒用エタノールで拭くようにしています。詳細は日本眼科学会・日本眼科医会が2020年4月1日に公表した文書「新型コロナウイルス感染症の目に関する情報について(国民の皆様へ)」をご参照ください5)。

 

6. おわりに

新型コロナウイルスに関連する目の情報についてまとめさせて頂きました。お読みいただいた皆様にとって少しでも一助となる部分があれば幸いです。新型コロナウイルス感染症が終息し、1日も早く世界中の人々が明るい日常を迎えることができるように切に願います。

 

7. 参考文献

1) Lu CW et al. 2019-nCoV transmission through the ocular surface must not be ignored. Lancet. 2020 Feb 22;395(10224):e39.

2) Loffredo L et al. Conjunctivitis and COVID-19: a meta-analysis. J Med Virol. 2020 Apr 24.

3) Wu P et al. A child confirmed COVID-19 with only symptoms of conjunctivitis and eyelid dermatitis. Graefes Arch Clin Exp Ophthalmol. 2020 Apr 24.

4) Wu P et al. Characteristics of Ocular Findings of Patients With Coronavirus Disease 2019 (COVID-19) in Hubei Province, China. JAMA Ophthalmol. 2020 Mar 31.

5) 日本眼科学会・日本眼科医会 「新型コロナウイルス感染症の目に関する情報について(国民の皆様へ)」 2020 Apr 01.

 

 

志賀 由己浩 (Yukihiro Shiga)

Montreal University Hospital Research Centre (CRHUM),

Department of Neuroscience, Post-doctoral fellow

 

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