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  • 佐藤 環 Clinical Research Coordinator

日本とモントリオールの医療事情の違い


日本の大学病院で内科医として勤務をし、2014年よりモントリオールで医療臨床研究に携わってきました。自らが患者として、また幼児の親としてみたモントリオール医療事情について報告致します。

日本の医療事情を皆さんはどう感じているでしょうか?日本にいるときは、あまり考えたこともないかもしれません。あのお医者さんは腕がいい、優しい、あの病院は待ち時間が短い、長い、などでしょうか?日本では、受診する科は患者さん本人が選び、受診する病院、クリニック(開業医)も患者さんが選びます。困ったときにはすぐに受診できるシステムは安心ですが、必ずしも受診が必要でない場合も多く含まれ、医療従事者や医療費への大きな負担が社会問題になっています。またこのシステムの弊害は時に間違った専門科を受診してしまうことです。例えば耳鼻科医のクリニックに皮膚疾患の患者さんが受診、整形外科クリニックに内科疾患の患者さんが受診に来ることなどもしばしばあります。インターネットである程度の症状を調べられるようになり、患者さんもこの症状なら、この科に受診したほうがいい、と自己判断で本来の専門でない科にかかる事が多くあります。そもそも日本では“一般医”という概念はごく最近まで薄く、ほとんどの医師が専門医(呼吸器内科、外科、皮膚科、整形外科、麻酔科など)です。ただ上記のように多くの専門科以外の受診例を経験するにつれ、結果的に、軽症であればいわゆる“一般症例”を診ることのできる有能な医師が日本には多く存在します。

一方カナダでは、一般医(家庭医)により、ある程度までの診察をうけ、それを超えた専門医が必要な疾患についてのみ、紹介状をもって専門医にかかるシステムです。最初にかかるのが、必ず一般医ですので、それ以降の専門医には概ね症例に対して正しい科に紹介される事が多く、間違った科を受診してしまう二度手間を減らすことができます。しかしマンパワーの問題、システムの効率の悪さ等、様々な要因で余程の緊急症例でない限りカナダでは専門医の診断を受けるまで、かなりの時間待たなければならないのが現状です(日本と比べてかなり重症になってから来院する患者さんが多数います)。

実際、ケベックではFamily doctorや小児科医などの一般医へのアクセス自体あまりよくないという印象を受けます。まずFamily doctor/小児科医ともに登録制でかかりつけ医が必要ですが、需要と供給があっておらず、こちらに来てFamily doctorがいない方は多いと思います。実際私もかかりつけ医はいません。CLSCでFamily doctor/小児科医希望をだすと、新しく患者を応募しているクリニックに自動的に割り当てられるそうですが、待ち時間は年単位のようです。それを待つよりは、上手にプライベートクリニックを利用するとやや日本の医療サービスに近い受診ができると思います。プライベートWalk-inのキーワードで調べるといくつかの大きなモントリオールのクリニックを検索できます。大きなプライベートクリニックではWestmount square health group, Rockland, Union medical, VM medical, tiny-tots clubなどがあります。

人口10万対医師数は、日本は206、ケベックは242です。つまり日本のほうが人口に対する医師数は少ないにもかかわらず、明らかにケベックより医療サービスへのアクセスが良いのはひとえに医師や医療スタッフの勤労によるものです。過去に個人的にモントリオールで受診した、小児科医、産婦人科医、皮膚科医、ERドクターは日本の医療と差のない素晴らしい医療を提供してくれました。また小児科のクリニックに関しては、予約なしで受診ができるウォークインクリニックのサービスなどもあり、あまり日本と差のない医療を受けられる印象を受けます。

違いといえば、日本よりも画像診断(X線、CT,超音波)や血液検査が非常に少ないことでしょうか?日本の医療は、1%の非典型的患者を見逃さないように努力をした初診を行います。カナダは医療費節約のために、99%の一般的な症状を想定した医療を行っている印象を受けます。モントリオールで非典型症状の1%に入ってしまったら、幸運にも経験値の高い医師により初診で見つけてもらえるか、もう少し重症になってから再診で見つかるかのどちらかだと思います。薬に関しても同様で、日本では高価でも症例に対して一番あっている薬を選びます。ケベックでは一番に処方される薬は薬価の安い薬のことが多く、日本では最近あまり見ないような古典的な薬が使われています。新薬は薬価が高いですが、とても良い薬もたくさんあり、状況に応じて上手な使い分けが必要と感じます。


日本の医療とモントリオールの医療は違いも多いですが、ケガ、持病のケア、救急の疾病に対し、常日頃から自分なりに対策しておくことが、安心して生活するために重要だと思います。重症でない病気で救急外来に行くと、確実に長時間待たされます。軽症ならば自分である程度対処出来るように、例えば、風邪薬、痛み止め、小児解熱剤、目薬、湿布、軟膏、消毒、カットバン等、ご自宅の救急箱を充実させておくことも必要です。もし日本帰国のチャンスがあれば、そこで必要な薬剤を購入したり、自費にはなりますが人間ドックに申込み、健康診断を行うのも疾病の早期発見、早期治療に繋がりとても大切です。残念ながらカナダ(北米?)では日本と比べて予防医学の概念が希薄です。どんな名医、良薬より、疾病を予防する意識を日々持つことが健康維持のためにより大切です。いわゆる生活習慣病等、多くの病気が、ご自身が自覚する前に体の中で既に始まっています。日々の食事管理、体重管理等、健康維持のため自分自身で出来ることはたくさんあります。ケベックの冬は寒く長いです。この長い冬を大人も子供もをいかにしてアクティブに過ごすかが、一年を通して心と体の健康を維持するうえでのKEYになります。さあご自身の環境で何が出来るか知恵をしぼりましょう。皆様が、ご家族と笑顔で健康的な海外生活を送れるようお祈り申し上げます。

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